かなり前に図書館に予約していた本の順番がやっとまわってきました。
原題は"THE WISDOM OF CROWDS"、直訳すると「群集の英知(集団の知恵?)」でしょうか、日本語版のタイトルとはだいぶ違います。Web2.0系のブログでよく紹介されていたので、そっち系の本かと思いましたが、実際は集合知の事例としてGoogle検索やリナックスのことが紹介されているだけで、政治・経済活動における”集団の知恵”の方がメインテーマになっているようです。ちなみに著者は「ニューヨーカー」金融ページの人気ビジネスコラムニストとのこと。本の中でも株式市場と集合知に関する記述が多く登場します。
私にとって一番興味深かったのは第11章「市場」でした。ほとんどのモノの価値(たとえばりんごの価格など)は市場を通した”集団の知恵”によって合理的に決定されるにも関わらず、株式市場などの金融商品の市場では合理的な価格形成が成り立たない、「空売り」が行われない市場では株価が間違えている可能性が高くなる、”集団の知恵”が”群集心理”に支配される過程とバブル発生の類似性、など、なかなか興味深い内容でした。
結論から言ってしまえば、株式市場においては独立した意思決定を行う合理的投資家と、”美人投票”にたとえられる相互依存的な意思決定を行う非合理的な投資家が「ある程度の割合で常時交わりあって存在している」こと、この割合が相互依存の方向に大きく傾くと、市場は群集心理に支配され、バブルが発生するということのようです。
効率的市場仮説では、すべての投資家が合理的な判断を下すことで常に株価は適正になっているので、市場平均を上回るリターンをを求めることは不可能であるということになっています。しかし、実際は個々の投資家の判断が見当外れであっても(合理的でなくても)個々の判断が独立していれば、お互いの間違いは相殺されて全体の判断は合理的になる。ある程度正常な状態の株式市場であれば”集団の知恵”が働くがゆえに市場は効率的となり、結果として「常に市場を上回る実績を出せる投資家はごくわずかしかいない」ということになります。
株式市場において、何らかの要因で投資家の判断の”独自性”が失われたとき、市場では”集団の知恵”が失われるので株価は非合理的になる(バブルが発生し崩壊する)ことになります。そのような市場で”群集の心理”に支配されず、独自の判断を下せる投資家はごく少数であり、「効率的市場仮説」という考え方は、”常に”株式市場に当てはまる考え方ではないと考えてよさそうです。
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